第5回講座●フランスの挿絵の歴史と絵本

いよいよ最終日。
人数も減ることなく、大人気の講座だった。
今日の講師は、私市康彦名誉教授・・・フランス文学・比較文学・児童文学が専門。

絵本は人の心を再生する力がある

さあ再び、フランスがテーマです。
と、その前に今の日本では、絵本がブームだそうな。
実感としては感じないが、こうして講座が開催され、人気を集めていること自体が表していると言えるか。って、私も参加している1人です。

「板橋と練馬が絵本の聖地」
これは初耳!そうなんだ。何でも絵本関係の美術館などが多いからだそうだ。
そう言えば昔、「いわさきちひろ」美術館に行ったことがある。確か練馬のどこだったっけ・・・場所は思いだせない。けれど、いわさきちひろさんの絵が多数飾ってあったのは覚えている。可愛かった。

民俗学者の柳田邦男さんは「絵本は人の心を再生する力がある」
心理学者の波多野完治(かんじ)さんは「絵本は人生で3回読まねばならない。1.子ども時代 2.子育て時代 3.晩年」とおしゃっているそうだ。

そんな絵本・・・フランスでは19世紀中頃に児童文学が確立された。
印刷の技術もあって子どもの本も競って挿絵で飾られるようになり、挿絵の黄金時代を迎える。
児童図書出版の父エッツェルは、「ペロー童話集」という歴史に残る挿絵本や「驚異の旅」連作を刊行した。
「ペロー童話集」シャルル・ペローが69歳の時に書いた。
社交界の娘達のために書いた話で「教訓つきの昔話集」、子ども向けではなかった。元大官僚で、息子の名で発表した。
「赤頭巾」「シンデレラ」確かに歴史に残る作品。この時代のフランスの作品だと知らなかったくらいに、物心つくころから何度となく聞いた話。
世界中でどのくらいの人達がこの話を知っているのだろう・・・おそらく凄い数のはず。
特徴:長くない・メロドラマではない。昔話を元に同時代の物語に書き直されていて、教訓が付いている。
ドレという傑出した挿絵画家の絵が付いている。
「驚異の旅」の連作。科学冒険小説家・挿絵画家ジュール・ヴェルヌによる「海底二万里」「月世界旅行」など。
挿絵の技術革新で、文字と絵が一緒に印刷出来る様になることにより、挿絵が主役に躍り出た。これらの本に心躍らせた少年がたくさんいただろうね。
少年・少女の心をつかむ作品が多くこの頃生まれたのだ。

20世紀になると「カストール」絵本がフランスで成立した。
「カストール」とは、ビーバーのこと・・・つまり自分で考え、自分でものを作ることをテーマにした本。
フランスは、伝統的に型にはめる教育が主流だったが「新教育」の運動が起こり(アメリカ=デューイ、イタリア=モンテッソリー、スイス=コルチャック)それらの影響をうけた創造的な絵本。世界各地に広まった。
「私はお面を作る」「私は切り抜く」など自分でつくる仕掛け。
東ヨーロッパやロシアの画家を採用。大型本ではなく、小型本にしたのも特徴。
「像のババール」日本を含め、今でも世界中で愛読されているこの本は、母が子ども達に聞かせた話を父が挿絵を描いて楽しもうというところから生まれた。
家族が生み出したキャラクター、円・四角で表現してあり、赤・緑・黄を使い、子どもの感覚に近くしてある。
また、子どもが大人の世界はどうなっているのかを知ることができる仕組みになっている。
これが、子ども達にアピールして人気になったようだ。

さらに現代では、「トミーウンゲラー」の絵本。
すっきりした線画に彩色をほどこしてある。人に嫌われている動物にも、愛すべきところがあるというメッセージが含まれている。
「はげたかオルランドはとぶ」「へびのクリクター」「エミール(=たこ)くんがんばる」・・・
また、ミッシェル・トゥルニエ=フランス文学の巨匠であるとともに、子供向けの物語も書いている。
「ピエロ・あるいは夜の秘密」は、大人にも楽しい絵物語。
ストーリーは、パン屋のピエロと、ペンキ屋と駆け落ちする洗濯屋の娘の三角関係の、でも心に沁みる話。
実際に絵本を見せてくれた。いろいろな対比が描かれている。
夜と昼、白と多色、内面と外面、恥じらいと厚顔。
虚飾で生きる現代人の寓意になっている。大人の心にも訴える内容だ。

赤ずきん   ペロー童話集

5日間の講座を終えて

このたび、幸せなことに家族の理解を得て、5日間の公開講座『ヨーロッパの挿絵と絵本』に参加できました。
まずはそのお礼を伝えたいと思います。ありがとうございます。
絵本、あるいは印刷全般。いや、文化とも言っても良いかもしれない。
それらの発展に、技術・産業の発展は欠かせなかったのだということを改めて感じた。
当たり前と思うだろうか・・・
しかし今、私達が生きているこの時代にも、新たに生まれている技術・産業は、新しい表現の可能性・世界観を広げるかもしれないのである。
そこから生まれる文化の中には、後世の精神文化に影響を与えるものも必ず含まれているに違いない。
また、そうであって欲しい。

幼い頃、たくさんの絵本や物語で精神世界を育んでもらった私は、今でも「物語世界」の豊かさに支えら生きている。
幸せなことだと思う。

しかしながら、こんな情緒にひたるまでもなく、技術が発達し時代が進むにつれ、
  子ども向け  → 大人も含む読者層
  一部の上流層 → 市民
  教訓的テーマ → 全てがテーマ(善・悪・悲しみ・恋愛など)
  人間の世界  → 動物達も登場する世界または宇宙・別世界
と、広がっていったのがわかる。
この「広がる」という傾向は、今後もますます続くのではなかろうか。
そして、そのことを求めて待っている人たちとは・・・私は、それは「大人の男性」なのではないかと感じる。
「かもめのジョナサン」「葉っぱのフレディ」と社会現象にもなった絵本は確かにある。
そう「大人の男性」が「心を再生できる」絵本がたくさん生まれることは、社会の豊かさに繋がるのである。
心理学者の波多野完治(かんじ)さんの言葉
「絵本は人生で3回読まねばならない。1.子ども時代 2.子育て時代 3.晩年」

この言葉に、わたしはもうひとつ付け加えたい。「自分で自分を育てる時期にも絵本を読むべきだ」と。

ヨーロッパの挿絵と絵本−公開講座を受講して

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